世界観
これはキミにもいつかあるかもしれないおはなし。
むかし、強欲なニンゲンばかりいる世界があった。
生物の中で唯一知能のあるニンゲンに手に入らないものなどなにもないのに、いつでもなにかを欲しがっている。欲のままに動き、奪い、争いを起こす。神はほとほと困り果てていた。人間の監視をまかせていた天使は、ことごとく人間か悪魔に堕ちていく。人間をつくりだしたのはどうやら間違いだったらしい。しかし滅ぼしてしまうのも気が引ける。しかたなく神は、ひとつの大きな罰をくだすことにした。幸いか、ニンゲンには”水”という弱点がある。
その世界に、多量の雨を降らすことにしたのだ。
ニンゲンはそれでも最初、争いをやめようとしなかった。だけど、街がどんどん沈んでいくものだから、あるときぴたりと争いをやめ、つぎに宗教を作り、空に、流星群に、神に祈りをささげるようになった。
「どうしてわたしたちがこんなめに!」
毎日赤ん坊の泣き声と老人の祈りが響き渡っている。
ニンゲンは、ほとんど生きるのを諦めかけていた。
そんなある日、体こそ沈んでいないものの、心の沈み切った生存者のなか、怪しい男が声を上げた。
「海底都市をつくればいいじゃないか!」
と。
皆、この男は気でも狂ったのだろうと思っていた。
しかし、このままじっとしていてもいつか死ぬのは明らかだ。
ひとり、ふたりと賛同していき、最後には生存者全員、その男の指示のもと海底都市をつくることになった。

しかし、ニンゲンはある存在を忘れていた。それは、”沈んだニンゲン”たちのことだ。彼らは皆、自分自身が生きることに精いっぱいで、いままで沈んでいったニンゲンのことを考えている余裕がなかった。
仮に覚えていたとしても、死んでいるとかんがえるのが普通だろう。
そう、ありえない話だが、彼らは沈んだあとも生きていたのだ。
人魚の肉を、貪ることで。
ニンゲンを助けた人魚は、おとぎ話のようにむくわれることなく、むしろ助けたニンゲンに余すことなく食われ、滅んでしまったのである。
人魚を喰ったニンゲンは、尾ひれこそはえてこなかったものの、鰓呼吸ができるようになり、ニンゲンだったころよりずっと乱暴で残虐な性格になってしまった。
さまざまな実験をくりかえし、ようやく海底都市ができたときにはもうニンゲンは50人ほどしか生き残っていなかった。神はというと、数を減らすという目的と、性根をただすという目的を果たすことができたので満足し、それ以上雨を降らすことをやめた。
そうしてできあがった海底都市には、もちろんニンゲンしか住んでいない。球体の住居は決して壊れないようにできているし、海上へとつづく輸送トンネルで酸素の供給はバッチリだ。もうなにも恐れることはない。ニンゲンたちは安心しきっていた。

こうして、ニンゲンが住む海底都市と、ヒト型のなにかが住む水没都市のふたつができあがった。
物語のつづきがハッピーエンドになるのか、バッドエンドになるのかはまだ、わからない。
嗚呼、伝え忘れていたことがひとつだけあった。
神もニンゲンも、知らないこと。
ニンゲンに堕ちた、天使の行方だ。